日本のミサイル防衛事情と自民党の「国民を守るための抑止力向上に関する提言」及びメディアの反応

日本のミサイル防衛事情と自民党の「国民を守るための抑止力向上に関する提言」及びメディアの反応

先日、河野太郎防衛相が2020年8月4日の記者会見で「韓国と中国などの周辺国に理解を得られる状況ではないのではないか」と質問され「中国がミサイルを増強しているときに、なぜその了解がいるのか」と回答した場面があったという記事を書きました。

この質問のベースには、自民党の国民を守るための抑止力向上に関する提言があります。まずはこの提言の内容を見てみましょう。
少し長くなりますが、以下に自民党の公式サイトから引用しておきます。

国民を守るための抑止力向上に関する提言 2020年8月4日 自民党公式サイト
(ミサイル脅威の増大)
北朝鮮は、近年、前例のない頻度で弾道ミサイルの発射を行い、同時発射能力や奇襲的攻撃能力等を急速に強化してきた。米朝協議が行われる中で、一時、弾道ミサイルの発射が行われなかった時期はあるものの、その間も、わが国全域を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有し、それらを実戦配備しているという現実は継続していた。また、令和元年以降、新型を含む弾道ミサイルの発射を繰り返し、関連技術や運用能力の更なる向上を図っている。
さらに、各国は従来のミサイル防衛システムを突破するようなゲームチェンジャーとなりうる新しいタイプのミサイルの開発を進めている。中国やロシア等は極超音速滑空兵器の開発を進めており、北朝鮮も低空、かつ、変則的な軌道で飛翔可能とみられるミサイルの発射実験を行っている。

~中略~

(2) 抑止力を向上させるための新たな取組
わが国への武力攻撃の一環として行われる、国民に深刻な被害をもたらしうる弾道ミサイル等による攻撃を防ぐため、憲法の範囲内で、国際法を遵守しつつ、専守防衛の考え方の下、相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取組が必要である。
その際、「攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能」との従来の政府の立場を踏まえ、わが国の防衛力整備については、性能上専ら相手国国土の壊滅的な破壊のためにのみ用いられる、いわゆる攻撃的兵器を保有しないなど、自衛のために必要最小限度のものに限るとの従来からの方針を維持し、政府として早急に検討し結論を出すこと。

引用:https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/200442_1.pdf
引用:https://www.jimin.jp/news/policy/200442.html

提言内にある「各国は従来のミサイル防衛システムを突破するようなゲームチェンジャーとなりうる新しいタイプのミサイルの開発を進めている。中国やロシア等は極超音速滑空兵器の開発を進めており、北朝鮮も低空、かつ、変則的な軌道で飛翔可能とみられるミサイルの発射実験を行っている。」というくだりは、ロフテッド軌道やディプレスト軌道といった発射手法なども指していると思います。

筆者がイメージ図を作成しましたのでこちらも参照ください。
▼ロフテッド軌道、ディプレスト軌道のイメージ

【画像】ロフテッド軌道、ディプレスト軌道のイメージ

これらは非常に迎撃しにくい発射手法といわれており、イージス艦搭載の海上配備型迎撃ミサイル(SM3)でも高度が届かず対応不能との事。
まさに撃たれたら終わり、座して死を待つしかないということになります。
実際に北朝鮮はロフテッド軌道での発射を実施済みです。以下に日経新聞の記事を示しておきます。

  • 【日経新聞】北朝鮮、ICBM開発前進か 「ロフテッド軌道」迎撃困難 2017/5/15
    https://www.nikkei.com/article/DGXKASFS14H0X_U7A510C1PE8000/

そこで出てきたのがこの提言です。
攻撃を防ぐために、他に手段が無い場合、ミサイル発射基地を攻撃する事は法理的には自衛の範囲に含まれるのではないか、という事です。
「いや、それでも攻撃すべきでない、おとなしく死ぬべきである。議論する事すら許されない。」というのも一つの意見ではありますが、それで国民の大多数を説得できるでしょうか。

新聞、テレビ等のメディアの論調

それでは、新聞、テレビ等のメディアはどういう論調でしょうか?
例をいくつか挙げておきます。
以下はFNNの記事です。
「中国や韓国の了解は前提でない」「河野防衛相が気色ばんだ」等の表現で、批判的な印象です。

河野防衛相 質問に反撃 ミサイル防衛 中国や韓国の了解は前提でない FNN
日本のミサイル防衛に中国や韓国の理解が必要かをめぐり、河野防衛相が気色ばんだ。
~中略~
中国や韓国の了解は前提ではないとの認識を示した。
引用:https://www.fnn.jp/articles/-/70276

次は、朝日新聞からの引用です。
こちらの記事は、2020年07月29日のものなので、河野大臣の会見の前にあたりますが、朝日新聞のミサイル防衛についての考えが示されています。

「敵基地攻撃能力」とは何か? イラク戦争当時の国連での議論から考える - 川端清隆|論座 - 朝日新聞社の言論サイト
戦後の安全保障の根幹を揺るがしかねない議論
日本が限定的な攻撃力の保持について真剣に議論することは、国力の相対的な低下にともないアメリカが「世界の警察官」の役割から降りつつある現実に照らすと、もはや避けて通れないことかもしれない。しかし一方で、防衛目的とはいえ、もし日本がこのような攻撃力を持つことになれば、防衛に専念する自衛隊は「盾(たて)」で攻撃を引き受けるアメリカ軍は「鉾(ほこ)」という、日米二人三脚を軸とする戦後の安全保障の根幹を揺るがしかねない。
引用:https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020072400002.html

朝日新聞も当然、批判的ですね。
では、どうしろと言うのでしょうか?
おそらくは「外交的努力で解決せよ」ということなのでしょうが、国防とは国民の安全、財産を守るために常に最悪の事態に備えておく事だと思います。

メディアやジャーナリストは、広く読者や国民に考えたり判断したりする材料を提供するのが仕事なのではないでしょうか?
一部のメディアやジャーナリストはその努力を怠っているように思えてなりません。

この記事が、考えるきっかけになれば幸いです。

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